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東京地方裁判所 平成4年(ワ)23351号 判決

原告(反訴被告)

山口勝代

右訴訟代理人弁護士

原隆男

五葉明徳

桜田英志

被告(反訴原告)

株式会社第一興商販売

右代表者代表取締役

大和正弘

右訴訟代理人弁護士

堀裕一

木島昇一郎

主文

一  被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する平成四年一〇月三〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。

三  反訴原告(被告)の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを一〇分し、その一を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(本訴)

一  請求の趣旨

1 被告(反訴原告、以下「被告」という。)は、原告(反訴被告、以下「原告」という。)に対し、二二五七万五七〇〇円及びこれに対する平成四年一〇月三〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(反訴)

一  請求の趣旨

1 原告は、被告に対し、五五八万円及びこれに対する平成六年一月二八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第二  当事者の主張

(本訴)

一  請求原因

1 当事者

原告は、東京都品川区二葉一丁目四四九番の一及び同所四五〇番七の各土地(以下併せて「本件土地」という。)の所有者である。

被告は、音響機器の販売、飲食店の経営及び経営コンサルティング等を目的とする株式会社である。

2 本件契約の締結

原告は、被告との間で、平成四年一〇月三日、次の引渡検査日を完成引渡期限とすること等を約して本件土地上に被告がカラオケ施設(仮称カラオケプラザ「大井町二葉店」、以下「本件カラオケ施設」という。)の建築工事を請け負い、かつ、被告が原告に対してカラオケ機器を売却する旨の契約を締結した(以下「本件契約」という。)。

引渡検査日  平成四年一二月二日、遅くとも一二日又は一三日

契約代金  工事請負及び機器売買代金合計一億〇三九〇万円

3 被告の工事完成義務の履行不能と解除

(一) 本件契約によって定められた引渡検査日は、後述のとおり原告がカラオケ店の最繁忙期である忘年会シーズンに間に合うように本件カラオケ施設を開店したいとの強い希望をもっていたため、被告の下請業者である有限会社アート工房(以下「アート工房」という。)が、平成四年一〇月五日に建築確認申請を行い、建築主事による現地調査が行われた後速やかに工事に着手し、早ければ同年一二月二日に、遅くとも同月一二日又は一三日には工事を完成して原告に引き渡し、同月一六日にはオープンが可能になるように定められたものである。

(二) ところが、アート工房の代表者櫨本博之(以下「櫨本」という。)は、建築確認申請書添付書類である構造計算書の作成を怠り、平成四年一〇月五日に行うべき建築確認申請を行うことができなかった。そして、櫨本は、当初は一週間後である同月一二日に建築確認申請をすると説明しておきながら、このときも必要な書類が整わず、結局同月一九日になって建築確認申請を行ったが、同月一二日の再延期の際、櫨本ないし被告は、原告に対し、通常の工期なら同年一二月二五日ころに完成するが、工事を急ピッチで進めるので、何とか同年一二月中旬ころに工事を完成すると約束した。

(三) ところが、アート工房に対し、同年一〇月二二日付けで品川区建築主事から建築基準法六条三項に定める期限内に建築確認することができない旨の通知がされた。

これは、アート工房が行った申請に構造詳細図の欠落等の重大な不備があったためである。右のとおり建築確認申請が遅れたばかりか、申請内容も不備であったことから、アート工房には確認申請に必要な書類を作成する能力がなく、右不備を早急に補正することはできないことが明らかになり、したがって、被告が第2項の引渡検査日までに本件カラオケ施設の建築工事を完成させることが不可能であることも明らかになった。

(四) そこで、原告は、被告に対し、平成四年一〇月二九日、口頭で債務不履行を理由として本件契約を解除する旨の意思表示をした。

4 解除原因

(一) 定期行為の不履行による解除

原告は、被告に対し、本件契約締結の際、本件契約は原告がカラオケ事業を行い、これによる収益をもって原告の銀行に対する借入金を返済することを目的とするものであって、そのためには、カラオケ事業の最繁忙期である一二月中旬までに開業してその後の経営を軌道に乗せる必要があることを述べ、もって、第2項の引渡検査日までに被告が本件カラオケ施設の建築工事を完成させなければ本件契約の目的を達し得ないものであることを表示し、被告もこれを了承した。

しかるに、第3項(四)の解除の意思表示に先立ち、第3項(三)のとおり被告において同年一二月中旬までに本件カラオケ施設の建築工事を完成し、これを原告に引き渡すことができないことが明らかになった。

(二) 履行不能による解除

原告と被告とは、平成四年一二月中旬を被告の建築工事完成及び本件カラオケ施設引渡しの確定期限として定めたのに、この履行期に履行することが不可能であることが確定的となったので、原告は履行不能を理由に本件契約を解除し得る。

(三) 信義則違反による解除

仮に、右履行期における履行不能が認められないとしても、次のような事情があるのに本件契約の解除を認めず原告に債務の履行を強制することは信義に反するから、本件契約の解除は信義則上有効である。

(1) 原告が本件カラオケ施設を平成四年一二月一三日までに開業することは、カラオケボックス経営のコンサルティングをも業とする被告の指導に基づくものであり、原被告間の了解事項であった。

(2) 被告からその履行代行者として本件カラオケ施設の建築を一括下請けしたアート工房は、設計、建築確認申請及び施工の能力に欠けており、これらの任にあたる同社代表者櫨本には建築士の資格がなかった。

(3) 被告は、建設業法による特定建設業の許可を受けていない。

5 原告の支出、損害

(一) 原告は、被告に対し、平成四年一〇月五日、本件契約に基づき、代金の内金二〇〇〇万円を支払った。

(二) 原告は、本件土地上に本件カラオケ施設を建築するために、同土地上において営業していた駐車場契約を順次解約した。このため、原告は二四七万五七〇〇円の得べかりし利益を失った。

(三) 原告は、本件契約の代金を銀行から借り入れたため、銀行に対して、前記内金二〇〇〇万円について一か月分の利息として一〇万円を支払った。

6 よって、原告は、被告に対し、本件契約解除に基づく原状回復請求として二〇〇〇万円及び債務不履行に基づく損害賠償請求として二五七万五七〇〇円並びにこれらに対する解除の日の翌日である平成四年一〇月三〇日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実のうち、引渡検査日を完成引渡期限とする約定をしたことは否認し、その余は認める。原告主張の引渡検査日は被告の努力目標に過ぎず、完成引渡期限は平成四年一二月末日であった。

3 同3(一)、(二)の事実のうち、アート工房が被告の下請業者であり、平成四年一〇月一九日に建築確認申請を行ったことは認め、その余は否認する。同(三)の事実のうち建築主事からアート工房に対し期限内に確認することができない旨の通知がされたことは認め、その余は否認する。指摘された不備はアート工房において容易に補正できるものであった。同(四)の事実は認める。

4 同4(一)の事実のうち、原告が借入金を返済することを動機として本件契約を締結したことは認め、その余は否認する。本件カラオケ施設は少なくとも五年間ほど営業することによって投下資本の回収を図るものであって、必ず繁忙期に開業せねばならないものではない。同(二)の事実は否認する。同(三)(1)、(2)の事実のうち、アート工房が被告から本件カラオケ施設の建築を一括下請けし、櫨本が設計、建築確認申請及び施工にあたっていたことは認め、同人に建築士の資格がなかったことについては知らず、その余は否認する。同(3)の事実は認める。

5 同5(一)の事実は認め、(二)及び(三)の各事実は知らない。

6 同6は争う。

三  抗弁

1 被告又はその履行代行者の帰責事由の不存在

(一) 被告と櫨本は、平成四年一〇月六日、原告との間で最終打合せを行い、翌日にでも建築確認申請を行う予定であったのに、原告及び原告の夫は右同日、契約代金を変更しないとの前提で、次のとおり本件カラオケ施設の設計を変更するよう指示した。

(1) 引き違い窓を縦滑り出し窓に変更する。

(2) 玄関入口をアルミサッシドアから強化ガラスドアに変更する。

(3) 一階部分について、四部屋を三部屋に変更する。

(4) 二階部分について、角部屋を二部屋に仕切る。

これらの変更の結果、櫨本は設計及び構造計算をやり直さざるを得なくなった。

(二) 本件建築確認のためには、本件土地に存在した道路の廃止手続を事前に行うことが必要であったところ、原告と被告との合意により原告において右手続を行うべきことになっていたが、原告はこれを懈怠し、ようやく平成四年一〇月一九日の建築確認申請と同時に右手続を申請した。

(三) このように、建築確認申請が当初予定より遅れたこと及び建築基準法六条三項の期限内に確認することができなくなったこと(請求原因3(三)参照)は、原告の責に帰すべき事由によるものであって、被告及びアート工房に帰責事由はない。

2 利得の一部消滅

本件カラオケ施設建築について、被告は、アート工房との間で下請契約を締結しており、被告は、アート工房に対し、平成四年一二月二二日、原告による解除の日までの下請契約代金として、一五六三万円を支払った。

3 相殺

請求原因3(四)記載の原告の解除について、被告は、これを注文主の解除権の行使として援用する。

右解除により、被告は、その下請業者であるアート工房に対して、平成四年一二月二二日、解除の日までの下請契約代金として、一五六三万円を支払った。

よって、被告は、原告に対し、平成六年七月一九日の本件口頭弁論期日において、右注文主の解除に基づく一五六三万円の損害賠償請求権をもって、原告の本訴請求債権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1(一)の事実のうち、原告及び原告の夫が、代金を変更しない前提で、被告主張のとおり窓、玄関入口の建材及び部屋の間仕切りの変更を指示したことは認め、その余は否認する。これらの仕様変更は設計の大幅な変更をもたらすものではなく、また構造計算には影響しないものである。同(二)の事実のうち、原告が道路位置廃止手続をすべきことになっていたこと及び同年一〇月一九日右手続を申請したことは認め、その余は否認する。道路位置廃止手続は建築確認申請と同時並行的に進めることになっており、櫨本もこれを承知していた。なぜなら、本件土地において新規事業を行うにはその事業内容いかんにより開発行為の許可を受けることが必要となる場合があるのにこれを潜脱することがあり得るため、道路廃止手続を先行させずに建築確認申請手続と並行して行わせ、品川区役所において本件土地の事業内容を確知する必要があるからである。同(三)の事実は否認する。

2 同2及び3の事実は知らない。

(反訴)

一  請求原因

1 被告は、原告との間で、平成四年一〇月三日、本件契約を締結したが、原告は、被告に対し、平成四年一〇月二九日、口頭で本件契約を解除する旨の意思表示をした。

2 被告は、本件契約に含まれているカラオケ機器(LC―V八〇を五台及びCDK―P七を六台)の販売によって五五八万円の利益を得るはずであったが、原告の解除により右得べかりし利益を失った。

3 よって、被告は、原告に対し、注文者の契約解除によって受けた損害として五五八万円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成六年一月二八日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認め、同2の事実は知らない。

同3は争う。

原告が被告に対してなした解除の意思表示は、本訴請求原因3及び4記載のとおり、被告の債務不履行によるものである。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  原告と被告との間で、平成四年一〇月三日、建築工事の請負代金及びカラオケ機器の売買代金合計を一億〇三九〇万円として、本件土地上に被告が本件カラオケ施設の建築工事を行うことを請け負うとともに原告に対してカラオケ機器を売却する契約が締結されたことは、その工事完成引渡期日に関する点を除き、本訴及び反訴を通じて当事者間に争いがない。

二  原告は、本件契約において、本件カラオケ施設の完成引渡時期が同年一二月一三日を確定期限とするものと定められたと主張するので、この点について検討する。

1  甲第一、第五、第八号証、乙第一、第二号証、第五号証(後記採用しない部分を除く。)、証人山口止郎の証言、証人熊谷毅の証言(後記採用しない部分を除く。)及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる(一部争いのない事実を含む。)。

(一)  原告は、本件土地を共同相続した後、他の共同相続人との協議により単独で本件土地の所有権を取得するに至ったが、その際他の相続人に対して金銭を交付し、また本件土地上の借地人に対して立退料を支払ったことなどによって株式会社さくら銀行(以下「さくら銀行」という。)等の金融機関に多額の債務を負っていた。原告は、本件土地を有料駐車場として利用し借入金の利息の支払に充てていたが、駐車場では借入金額に比して土地利用が効率的であるとはいえなかったので、さくら銀行の担当者の嶋村からカラオケの店舗用建物を建築、経営することを勧められ、右債務を返済するため、新たにさくら銀行から追加融資を受けて、本件土地上に収益性の優れたカラオケ施設を建築し、これを経営して利益を挙げ、追加融資分の返済のみならず従前の借入金の返済に充てることを計画した。

そして、原告は、さくら銀行の嶋村からカラオケ機器の販売及びカラオケ店舗の経営等を行っている被告を紹介された。平成四年五月、さくら銀行の嶋村、原告及びその夫山口止郎並びに被告の営業部長熊谷毅(以下「熊谷」という。)が面談したことから始まって、被告が事業計画書案を作成し、さくら銀行の嶋村が収支可能性、融資枠を考慮して投下資本の金額の縮小を求めるなどして事業計画が煮詰められ、本件カラオケ施設の建築業者も被告が紹介することになり、同年七月二日、熊谷は、山口止郎に対しアート工房の代表者櫨本を紹介した。熊谷は、櫨本が自ら一級建築士であると称していたためその資格があるものと信じていた。山口止郎と櫨本とは本件カラオケ施設の建築工事について打合せを行ったが、櫨本は、工期が二か月間であり、建築確認申請をしてから建築確認を受けるまで三週間程度要するものの、申請後一週間以内に現地調査が行われ、それが済めば着工できると説明し、同年九月三〇日に融資が実行されればその日のうちに本件契約を締結し、建築確認申請を行うことによって、同年一一月三〇日までに本件カラオケ施設の建築工事を完了し、同年一二月二日に引き渡すことができると述べた。そこで、山口止郎と熊谷とは、櫨本の右見通しに基づいて同年九月三〇日にさくら銀行から融資の実行を受け、本件契約を締結し、櫨本において建築確認申請を行うとの手順を取り決め、さくら銀行の嶋村、本店営業部本間にもそのことを話した。熊谷は、さくら銀行の嶋村、本間との打合せを行った結果、最終的に投下資本を一億四二〇〇万円として算定した事業計画書(乙第一号証)を作成し、同年八月二一日山口止郎にこれを渡した。こうして、原被告間で代金一億四二〇〇万円で本件カラオケ施設の建築工事及びカラオケ設備の売買を行うとの合意が内定し、さくら銀行も右代金相当額を原告に融資することを内諾した。その後山口止郎及び原告は、熊谷に対し本件カラオケ施設等の規模、設備内容を縮小することによって代金総額を一億〇三九〇万円に減額することを申し入れ、熊谷もこれを了承したので、原被告間で代金総額を一億〇三九〇万円とする合意が成立した。このように、原被告間で代金額等を一部変更する合意がされたものの、本件カラオケ施設の引渡時期等については変更のないまま山口止郎と熊谷及び櫨本との間で打合せが行われており、同年九月一八日には山口止郎の得意先から本件カラオケ施設について同年一二月八日の予約が入り、打合せのためその場に居合わせた熊谷及び櫨本とも同年一二月八日には営業できるとの見通しを述べたことがあった。

山口止郎及び原告が同年一二月上旬に本件カラオケ施設の引渡しを受けることを求め、右のとおり山口止郎と熊谷及び櫨本との間で同年一二月二日の引渡しを前提に打合せが行われたことには、原告側に次のような事情があった。すなわち、前記のとおり原告には多額の債務があり、その返済原資とするために本件カラオケ施設の建築、経営を計画したのであったが、山口止郎及び原告は赤坂でカラオケ設備のあるスナックを経営しており、忘年会シーズンに需要が大であることを知っていたので、本件カラオケ施設も忘年会シーズンに合わせて開業すれば売り上げを伸ばすとともに固定客を確保することができ、以後の経営を軌道に乗せやすく、右債務の弁済を滞りなく行い得る態勢を作ることができると考え、右のとおり当初は同年一二月二日に本件カラオケ施設の引渡しを求めたのであった。被告の担当者熊谷も一般論として忘年会シーズンに合わせてカラオケ施設を開業することが有利であることを知っており、山口止郎及び原告の右考えを聞いても何らこれを否定せず、カラオケ施設の収益性が優れていることを説明していたのであって、その後の山口止郎らとの打合せを通じて山口止郎及び原告の右考えを容認し、同年の忘年会シーズンに合わせて本件カラオケ施設を引き渡すことを承諾し、これを実現することができるように手順を煮詰めていったものということができる。

ところが、さくら銀行の融資の実行が、予定されていた同年九月三〇日から同年一〇月五日まで延びたため、本件カラオケ施設の引渡時期について見直しをせざるを得なくなり、同年九月三〇日、本件契約に先立ち、熊谷は、櫨本の見通しに基づき、山口止郎に対し、同年一〇月五日の融資実行日に、被告の下請業者であるアート工房が建築確認の申請を行い、一週間後の一二日までには建築主事による現地調査を経て、直ちに工事に着工し、早ければ同年一二月二日、遅くとも一二月一三日には工事を完成し、同月一六日ころには開業しうると説明し、山口止郎もこれを了承した。

(二)  平成四年九月三〇日の熊谷と山口止郎の右話合いの結果を受けて同年一〇月三日に本件契約が締結され、本件カラオケ施設の引渡時期については熊谷と山口止郎の話合いにより原被告間で遅くとも同年一二月一三日とするとの合意がされたものの、契約書には引渡検査日として同年一二月二日と記載された。

同年一〇月五日にはさくら銀行の融資も実行されたが、後記認定のとおり、櫨本において建築確認申請書に添付すべき構造計算書の準備ができていなかったため、確認申請の日取りは同月一二日まで延期され、同日に至っても準備ができていなかったことから、さらに同月一九日まで延期された。

そして、一二日の再延期の際、開店時期が遅れることを危惧する原告に対し、櫨本は工事を急げば同年一二月中旬には間に合う旨約束し、熊谷も同意見であったので、原告もこれを了承した。

以上の事実が認められ、乙第五号証及び証人熊谷毅の証言中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らしてたやすく採用することができず、他に右認定に反する証拠はない。

2  右認定事実からすれば、原告は前記のとおり多額の債務を負っており、本件土地における駐車場収益では借入金の金額に比して効率的な土地利用とはいえなかったため、取引銀行であるさくら銀行が関与して既に平成四年五月から銀行融資による本件カラオケ施設の建築が検討され、計画が煮詰められてきたという経緯があり、原告は本件カラオケ施設の経営を早期に軌道に乗せなければ、追加融資を受けたことによって一層苦しむ結果となると危惧し、それまでのスナック経営の経験に基づいて平成四年一二月の忘年会シーズンに本件カラオケ施設の開業を間に合わせることを求め、被告も、原告の右考えを十分認識しつつ、同年一〇月五日の融資実行日に建築確認申請を行うことにより遅くとも同年一二月一三日までに本件カテオケ施設を完成させることができるとの櫨本の見通しを信頼し、これに基づいて同年一二月一三日を完成引渡期限とすることを承諾したものというべきであるから、原告と被告とは、本件カラオケ施設の建築工事を完成し、これを原告に引き渡す期限として、本件契約時には、遅くとも同年一二月一三日と合意し、その後、右期限は、建築確認申請が遅延した際に同月中旬、すなわちこれを合理的に解釈して同月二〇日までと変更されたと解するのが相当である。

この点被告は、右期限は、被告の努力目標としての意味しかなく、完成引渡期限は平成四年一二月末日であったと主張し、証人熊谷毅も同旨の証言をする(同人の陳述書である乙第五号証も同旨)が、前掲各証拠に照らしてたやすく採用することができず、他に右認定に反する証拠はない。

三  原告が被告に対し、平成四年一〇月二九日、本件契約を解除する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがなく、原告は、解除原因の一つとして、被告において履行期に履行することが不能となったと主張する。

1 請負契約において、その完成に相当の日数を要する場合、約定の履行期前であっても、請負人において履行期までに仕事を完成させることができないことが確定的であるときは、注文者は履行期の到来を待つことなく、履行不能を理由として当該契約を解除することができると解すべきである。そこで、右解除の意思表示の時点において、前記履行期に被告が本件カラオケ施設の建築を完成しこれを原告に引き渡すことができないことが確定的であったか否かを検討する。

2  甲第八号証、第一一号証の一ないし六、第一二ないし第一六号証、乙第六号証の一、二、第八号証、証人山口止郎の証言、原告本人尋問の結果、調査嘱託の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる(一部争いのない事実を含む。)。

(一)(1)  さくら銀行は原告に対し、平成四年一〇月五日午前中に八〇〇〇万円の融資を実行し、原告は被告に対し二〇〇〇万円を直ちに支払った。前記のとおりアート工房が当日本件カラオケ施設の建築確認申請を行うことになっており、この申請は午後に予定されていた。しかるに、アート工房の代表者櫨本はその申請に構造計算書が必要であったにもかかわらず、これを知らず、準備していなかったため、予定されていた建築確認申請を行うことができないことが判明した(なお、後記認定のとおり同月一九日にされた建築確認申請の際に構造詳細図が欠落していたことからすると、櫨本が同月五日に準備を怠った書面は構造計算書であったと認める。)。熊谷から右の話を聞いた山口止郎は、翌日原告と共に櫨本を呼び出して事情の説明を求めたが、櫨本は弁明に終始し、一週間程度の遅れは取り戻せないものでもないという趣旨の説明をしたので、原告及び山口止郎も改めて同月一二日に建築確認申請を行うことで了承した。

(2)  同月一二日、原告は道路廃止手続の申請のため櫨本と連れ立って品川区役所に赴くことになっていたため櫨本と待ち合わせたが、櫨本は依然として構造計算書を準備できておらず、建築確認申請を行うことができなかった。原告は、建築確認申請の遅延のため本件カラオケ施設の開業が遅れてしまうことを危惧し、櫨本が一週間経ってもなお構造計算書を準備できなかったことにクレームを付けたが、櫨本が同月一九日には必ず申請できるし、工事もオープン予定日に間に合わせるよう挽回できると述べたので、同月一九日に建築確認申請を行うことを約して別れた。原告は、後述のとおり品川区役所の担当者から道路廃止手続の申請を建築確認申請と同時に行うよう指導を受けていたので、その日は品川区役所に行かなかった。

(3)  同月一九日、原告と櫨本とは品川区役所に赴き、道路廃止手続の申請と建築確認申請とを行った。原告の道路廃止手続の申請は順調に終わったが、櫨本の建築確認申請には、後述するような大きな不備があったほか、形式的な記載の不備があったため、受理されるまでに手間取った。建築基準法施行規則一条に定める「確認の様式」のうち建築確認申請書「第一号様式」、建築計画概要書、工事届及び委任状が添付され、事務所登録のある一級又は二級建築士が設計した旨の書類が整っていれば申請書を受理する扱いになっており、櫨本の準備した書類も形式的な記載の不備を直すことによりこれらの限度では一応整ったため受理されたものの、(二)で述べるような大きな不備があり、追完、訂正を必要としていた。

(二) 建物の設計は構造、設備及び意匠に大別できるが、櫨本の行った建築確認申請は意匠に関しては詳しかったものの、構造及び設備については大きな不備があり、専門家からはこれらについての専門的知識を持たない者が図面を作成したと評されてもやむを得ないものであった。

(1) 建物の構造の観点からの不備

ア 本件カラオケ施設の建築確認申請には、建築基準法施行規則一条により、付近見取図、配置図、各階平面図、二面以上の断面図、室内仕上表、基礎伏図、構造詳細図、各階床伏図、構造計算書、各階平面図が必要であった。櫨本が行った建築確認申請には右に掲記されているものについても既に二面以上の断面図及び構造詳細図が欠けていた。構造詳細図については櫨本が矩形詳細図で足りると考えていたためであったが、建物の構造に専門的な知識を有する者であれば、本件カラオケ施設の構造審査には、構造詳細図、軸組・壁面ブレース図面、二階床伏図、小屋伏図、断面リストが必要であることは明らかであった。しかし、櫨本が行った建築確認申請書には、右のうち二階床伏図及び小屋伏図以外は添付されていなかった。

床伏図、小屋伏図が平面における柱、桁、梁、ブレースの組合せ図であるのに対し、軸組・壁面ブレース図面は、建物の側面での柱、桁、梁、ブレースの組合せ図であり、断面リストは、柱、桁、梁、ブレースの寸法と厚みのリストである。このように、軸組・壁面ブレース図面は建物の骨組を示す図面であり、断面リストはこの骨組の寸法や厚みを示すもので、いずれも建物の構造審査に不可欠な図面であった。

イ 櫨本が提出した二階床伏図及び小屋伏図についても、構造上中央に圧縮に効く小梁が必要なのにそれが記載されておらず、ブレースの使用材も誤って記載されていた。また、小屋伏図には屋根板を支えるために梁と梁との間に張られる「もや」が記載されていなかった。これらはそのままでは致命的な欠陥というほかないが、櫨本は、二階床伏図及び小屋伏図を作成するに当たって構造計算書に記載されている図面をそのまま引き写してしまい、このような専門家にとっては基本的な点を看過してしまった。

(2) 建物の設備の観点からの不備

本件カラオケ施設の建築確認申請には電気の配線図、給排水の配管図、換気設備の図面が必要なのに、櫨本が行った建築確認申請書にはこれらの基本的な図面が添付されていなかった。

(三) 品川区建築住宅部建築課建築主事は、アート工房に対し、平成四年一〇月二二日付けで、建築基準法六条四項の規定による「期限内に確認できない旨の通知書」を送付した。右通知書には、期限内に確認できない理由として、「敷地内道路あり(未廃止)、水路敷合議、建築面積の違い、防火戸不足、トイレのカンキ不足、構造詳細図不足、他」と記載されていた。右の理由のうち、敷地内道路及び水路敷合議は原告において解決すべき事項であったが、前者については原告が品川区役所の担当者から道路廃止手続の申請を建築確認申請と同時に行うよう指導を受けていたため、建築確認申請時まで待っていただけであり、後述するように、道路廃止の決定がされることに問題はなかった。後者についても、後述するように、特に問題はなかった。前期通知書に掲げられていた理由のうちその他の理由は、アート工房において補正すべき事項であった。前記通知書に明示的に掲げられていたもの以外の理由としては、(二)で述べた不備のほか、設計図書への設計者資格登録番号の記名、押印、建築面積計算式の記入、道路斜線の記入、階段の蹴上げ、踏面寸法の記入などがあり、全体としてその不備の程度は大きかった。

(四) アート工房の代表者櫨本は、右確認申請に添付する図面を自ら作図したものの、建築士の資格を持っていなかったことから、確認申請書の建築士欄には、二級建築士である息子の櫨本康の名を使用し、構造計算書は外部に委託して作成した。

アート工房は、被告との契約としては、カラオケ店の内装工事を行ったことはあったものの、建築確認申請が必要な工事を行ったことはなかった。櫨本は、建物の設計のうち意匠に関しては詳しかったが、建物の構造及び設備については十分な専門的知識を持っておらず、前記の不備を解消するには資格のある建築士のいる設計事務所に設計を依頼しない限り無理であった。

(五) 原告は、平成四年一〇月一九日に櫨本が品川区の建築課窓口に確認申請書を提出する際に、自分は道路廃止の申請を行うために品川区役所に同行したが、その際、櫨本が建築課の窓口において、図面の分類ができていないことや確認申請者の氏名として原告の氏名を記入すべきところを、櫨本の氏名を記入していることなどを職員から指摘されてまごついている様子を目の当たりにしたことから心配になり、同月二四日ころ、建築課職員に電話で櫨本の建築確認の様子を尋ねたところ、同月二二日付けで建築主事がアート工房に対して前記の通知を行ったことと、櫨本の確認申請には不備が多く見られ、補正すべき点が多いと教えられた。

(六) そこで、原告は、櫨本では約束の期限までに工事を完成することはできないと考え、同月二四日、櫨本に対して工事を中止するよう申し出たが、櫨本は承諾せず、同月二六日にはショベルカーを本件土地に持ち込むなどしたが、結局、原告は、同月二九日、被告及び櫨本に対して口頭で本件契約を解除する旨の意思表示をした。右同日ころまでに櫨本は、建築確認申請の不備について、設計図書に室名を記入するなどして多少の訂正を加えたものを提出しただけであり、不十分な補正しかしていなかった。

(七) 本件カラオケ施設の建築には、着工後短くとも四五日間の工期が必要である。

乙第五号証の記載中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らしてたやすく採用することができず、他に右認定に反する証拠はない。

3 以上の事実によれば、櫨本が、建築確認に必要な図面を作成する能力に欠けており、建物の構造の理解についても不十分であったことは明らかである。したがって、前記の補正を要する部分については、櫨本が独力でこれを行うことができるとは到底解し得ないところであり、櫨本は必要な図面等を外注によって作成する必要があったと解される。

そして、本件カラオケ施設の建築工事には着工後短くとも四五日間が必要であるから、前記履行期である同年一二月二〇日までに被告が本件カラオケ施設の建築工事を完成し引渡しを了するためには、たとえ建築主事による現地調査が行われた直後に、建築基準法上禁止されている確認前着工に踏み切るとしても、遅くとも同年一一月五日までに右現地調査を経ることが必要となるが、構造についての審査に適合する見込みが全く立たない段階で現地調査がされるとは考えられないから、一一月五日までに右現地調査を経るためには、早急に前記構造詳細図等の必要書類を準備することが必要であったというべきである。しかし、甲第一六号証及び弁論の全趣旨によれば、従前設計に携わっていなかった別の設計事務所等が右書類を作成するには相当の日数がかかることが認められるから、アート工房が同年一〇月二九日以降前記の不備を補正して同年一一月五日までに現地調査を経ることは到底できなかったといわなければならない。したがって、原告が本件契約を解除する意思表示をした同年一〇月二九日の時点において、被告が、前記認定の約定期限である同年一二月二〇日までに、本件カラオケ施設の建築工事を完成し、原告に引き渡すことは社会通念上不可能であったというべきである。

4(一) 右のとおり、履行期に履行することができなくなったことは、被告の下請業者として本件カラオケ施設の建築にあたったアート工房がその能力不足から迅速に建築確認を得ることができなかったことにその原因があるから、これは履行代行者の責に帰すべき事由によるものであり、よって被告の責に帰すべき事由による履行不能というべきである。

(二)  この点、被告は、原告が契約締結後になって建物の仕様変更を指示したこと及び原告が行うべきであった道路廃止手続を怠ったことにより建築確認が遅れたとして、これらを理由に原告の責に帰すべき事由があると主張する。

まず、原告及び山口止郎が、被告又は櫨本に対し、平成四年一〇月六日、窓及び玄関入口の建材並びに部屋の間仕切りの変更を指示したこと、その内容が、引き違い窓を滑り出し窓に、アルミサッシドアを強化ガラスドアに変更し、また四部屋の部分を三部屋に仕切り直し、別の一部屋を二部屋に区切ることであったことは当事者間に争いがない。そして、甲第八、第一六号証、乙第五号証、証人熊谷の証言及び原告本人尋問の結果によれば、これらは建物の構造的部分にかかわるものでない軽微な変更であること、代金を据え置くとの条件が付されていることにより設計及び構造計算に変更を要するとしても、現に櫨本は、同年一〇月六日の夜に原告及び山口止郎の右指示を受け、これを了承して同月八日には設計図面を調製したこと、櫨本は、同月五日に至って初めて建築確認申請には構造計算書を添付することが必要であることを認識したことが認められる。これらの事実からすれば、仕様変更の指示がなされた同月六日の時点で構造計算書はまだ作成されておらず、したがって右指示によって構造計算をやり直す必要が生じたという関係にないことが認められる。とすると、櫨本はわずか一日間で設計の手直しができたのであるから、右仕様変更に伴う遅延は、たかだか構造計算書の作成にとりかかるのが一〇月五日から同月八日になったというものにすぎない。したがって、一週間延期された建築確認申請が同月一九日に再延期された時までに解消したというべきであり、同月一九日にされた建築確認申請には構造計算書が添付されていたのであるから、被告の履行不能が原告の仕様変更の指示に起因するものということはできない。

次に、道路廃止手続については、甲第八、第一〇号証、乙第八号証、原告本人尋問の結果及び調査嘱託の結果並びに弁論の全趣旨によれば、道路位置廃止手続は建築確認申請手続に先んじてされるべきことが本則であるが、本件においては同年一〇月一九日に建築確認申請と同時に受理され、同月三〇日に道路廃止が決定され、同年一一月五日に廃止の告示が行われていること、本件土地上で建物を建築するには、その事業内容により都市計画法上の開発行為として知事の許可を必要とする場合があること、区役所においてこの開発許可手続をせずに道路位置廃止手続だけの申請を認めては、右許可を潜脱することを許す虞があること、そのため、事業者が右開発許可手続を申請する労を執らずに道路位置廃止手続だけを進めるには、本件土地上でなされる事業が都市計画法上の開発行為に該当しない旨、品川区役所において確かめる必要があること、原告が同年一〇月一九日に道路位置廃止手続を申請したのは、現にカラオケ施設を建築しようとしていることが品川区役所において確知できるよう建築確認申請と同時にすべきである旨の同区役所担当者の指導に基づくことがそれぞれ認められる。右事実によれば、前記認定のとおり道路廃止手続が未了であったことが建築主事が所定の期限内に確認ができないとの通知の理由のひとつとされていたとしても、このような事態は区役所における手続上予見されており、早晩補正される不備であって建築主事による確認手続の実質的な障害ではなかったというべきであり、そのとおり右不備は一〇月三〇日には補正されたということができる。したがって、原告が道路廃止手続の申請を建築確認申請に先んじて行わなかったことについても、これが被告の履行期における履行を不能ならしめたとはいい得ない(また、調査嘱託の結果によれば、建築主事の前記通知に記載されていた「水路敷合議」は、結局不要であったことが認められるので、この点により建築確認が遅れるとの事情は存在しない。)。

5 以上によれば、原告が、平成四年一〇月二九日、被告に対して口頭でした解除の意思表示は、履行期に履行することが不能になったことに基づく解除として有効である。

四  そこで、原状回復請求及び損害賠償請求について検討する。

1  まず、原告が、被告に対し、平成四年一〇月五日、本件契約に基づく代金の内金として二〇〇〇万円を支払ったことは当事者間に争いがない。

なお、被告は、この点に関して、受領した金員のうち一五六三万円をアート工房に対して支払い、利得が一部消滅したと主張するが、契約の解除に基づく原状回復請求の範囲は現存利益の多寡によって影響を受けないと解すべきであるから、被告の右主張は失当である。

2  次に、原告は、本件土地を目的として締結していた駐車場賃貸借契約に基づく賃料収益の解約による喪失及び右のとおり被告に支払った二〇〇〇万円を銀行から借り入れたことにより銀行に対して支払った利息について、これらが被告の債務不履行による損害に当たるとしてその賠償を請求している。

しかしながら、契約解除による損害賠償請求は、履行に代わる損害賠償額から原状回復請求によって得ることのできる利益を控除した残額についてこれが損害に当たるとしてその賠償を請求することができると解すべきところ、原告の主張する右賃料収益喪失額と支払利息は、被告が仮にその債務の本旨に従った履行をしていたとしても、原告は右賃料収益を失い、また借入金の利息支払を免れなかったと考えられるから、履行に代わる損害賠償額に含まれないといわざるを得ない。したがって、これらの損害と被告の債務不履行との間には因果関係はないというべきであり、原告の主張は失当である。

五  次に、相殺の抗弁及び反訴請求原因について検討する。

被告の右主張は、いずれも原告の平成四年一〇月二九日の解除をもって注文主の解除権の行使(民法六四一条)に該当することを前提とした主張であるが、前期認定のとおり、原告の右解除の意思表示は、被告の責に帰すべき履行不能を理由とした解除の意思表示であるから、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。

六  以上のとおりであるから、原告の本訴請求は二〇〇〇万円及びこれに対する受領の日の後である平成四年一〇月三〇日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、被告の反訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官高世三郎 裁判官小野憲一 裁判官山口倫代)

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